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実用や本質と立場や正義がせめぎ合うブログ

コインは表と裏がくっついてコイン。 表の後ろを裏と呼び、裏の前を表と呼ぶ。 要するにコイン。

Simmons Racingの靴で幸せになった話 第3回 

今日は型取りについて書きます。 (第3回ということになっていますが事情を考慮して先に投稿します)
あえて言おう・・・カスタムオーダーは型取りが全てだと!!

Input your thinking into the foot mold.



【なぜ足型をとるか】
フルオーダーと名がつく限り、靴作りにあたってあなたの足型が必要です。 足型を必要としない注文はフルオーダーではなくセミオーダーとか呼ばれます。 ほぼ完璧なボリュームコントロールを実現するために、足型は必ず必要です。

Asap lust職人は、型取りした足型にそのままカーボンや布・革をかぶせて靴を作るのではなく、「ラスト」と呼ばれる造形型に昇華させてから作業をします。 足型をラストにする過程で、削られるべき所は削られ、盛るべきところには盛りを施すのです。
せっかく精微に型取りしたのにもったいないと思う人もあるかもしれませんが、流し込んだ石膏だって収縮率というものがあって全く同じにできあがるわけではありませんし、色々考えた上で靴作りにふさわしい形に作り変えてゆくのですね。



【型取り方法】
ここでは、代表的な型取り方法(というより道具)を紹介します。


‹キャスティングソックス›


molding by STS casting sox


お手軽に型取りができるので爆発的に普及した便利道具です。 水を含むと固くなる特殊な靴下がパック詰めになっていて、石膏のように汚れることもなく型取りできます。 STSという会社が最大手で・・・というか、ここ以外私は知りませんが、Bontなども型取りする人にこの会社のキャスティングソックスを送付しているようです。
私にとっては、あまりよい物とは思えませんでした。 手軽さを考えればたいへん素晴らしいとは思いますが、私などは手間がかかるからなんだってんだと思いましたね。 別に汚れたっていいから精巧な型を取りたい。 固まる挙動が速いのと、足の形に追従するのに大切な柔らかさにやや欠けるような気がします。 この2つが組み合わさると足の形に添わせよう・ダブついた部分を平らにしようとしごいてるうちにサッと硬化が始まって妙に小さく縮こまった型取りになってしまう なんて、よく起こりそうです。




‹印象材›

Asap


容器の中に印象材を満たして型取りします。 印象材は、歯医者で使用するアルジネートと呼ばれるピンク色の材料が多く用いられるようです。 通常よりずっと薄く水で薄めて流し込みます。
とても高精細に取れるのが特徴です。 シリコンで型取りしているのと変わらないくらいですが、乾燥すると形を保てないので、型取りをしたらすぐに石膏を流し込んで足型にしてしまう必要があります。
印象材そのものがはっきりとした硬度をもって固まるわけではないので、例えば柔らかい床材を使って型取りすることができないのが難点です。 あと型取り1回あたりにかかる費用もなかなかお高いですね。




‹トリッシャム›


ourprocess00.jpg


カスタムインソールの現場でよく用いられる道具です。 圧を受けると潰れて元に戻りません。 ご覧の通り、せいぜい材料の厚さは3cm程度のもので、足裏の形しかとることができません。 足のアウトラインと足裏の起伏を保存するのにはとても手軽でよい素材ですが、これだけではフルカスタムのための型取りには不充分なので、実際には印象材や石膏包帯と合わせて補い合うように使われるでしょう。




‹石膏包帯›

DSC03906


英名は「Plaster Bandage」などと呼ばれています。 目の粗い包帯に石膏の粉をまぶした物で、今なお世界中の工房で使われていますし、私自身Simmonsの注文ではこれを使って型取りしました。
汚したり、後片付けが大変だったり、扱いもやや難しかしいところがあります。 しかし、型取りにおいてある程度の方向付けを行いつつも、精微さも失わない型取りをしたい人には最適の材料だと思います。



この他にも、現在では3Dスキャナーを使って足の形を保存することもできます。 それこそiPhoneでスキャニングすることもできるので現実的な手段になりつつあるのですが、やはり大々的に実用化している工房は今のところありません。



【床材】
型取りの際に用いる床材の選択が、最終的な靴のできばえにとんでもなく重要な方向付けを担っています。 フローリングの上? マットの上? 空中? インソールの上? これは後段の ‹アーチ› と併せて本当に重要。

上に紹介した型取り材料の違いなんて、ハッキリ言って正しく型取りできてりゃ何だっていいんですよ。 キャスティングソックスは扱いにくい? それもうまく取れば済む話。 うまくとれるなら粘土でも漆でもモチでも何でも使えばいいと思います。 しかし、どんな材料を使っても、床材の上で型取りする以上は“そういうかたち”に型取りできてしまいます。 それがそのままラストへ反映され、靴その物になります。 だからこそ、自分がどのような靴がほしいのかよく考えて床材を選びましょう。

「主が直接型取りしないと注文はお受けしませんよ」という靴工房はかなり稀です。 ほとんどの工房は、顧客がいかようにしてか型どりした足型を送付すれば、それを使って靴を作ってくれます。
そのように案内する以上、工房は自分が推奨する・あるいは一例となる型取りのビデオクリップを公開していることが多く、公式アカウントによるものでなくても顧客が自分の受けた型取り風景を撮影してYoutubeに投稿していたりします。
これを利用して、床材などの使い方を実例で確認してみましょう。




Simmons Racing
柔らかい床材を用意し、特にはアーチを与えずフラットに型取り。
言動からも、自然な足裏、自然な指先を大事にしていることがわかる。





Rocket7
柔らかくはない床材にかなりキツめのアーチを与えた床材を用意している。
使用している型取り材料はSTSキャスティングソックス。
指先を余らせて引っ張りながら沿わせることで、縮こまらないように心がけている。
型取りを信用していないのか、トレーシングペーパーの提出も要求している。




Bont
床材は基本的に使用せず、その場の床の上に足を置く。
第三関節より先を上向かせる添え木を挿入する。
添え木の角度はかなり急で、市販Bontの平らかさとは真逆。


‹アーチ›


言葉の説明が後になりましたが、この「アーチ」という名前はとても紛らわしいもので、靴の説明をしていると2つも3つも違った“アーチ”が出てきます。 足の甲のふくらみもアーチだし、土踏まずの起伏もアーチ・・・。 弧を描いていればアーチと言えることに間違いはないとはいえ、とにかく誤解を生みやすい言葉です。
ここで私が申し上げたい「アーチ」とは、靴底に見られる特徴的な曲線のことです。 象徴的なハイヒールの曲線を想起させる、「S字アーチ」と呼び名もあります。

私自身は、少なくとも自転車に乗る時にだけ使う靴なのであれば、靴底の曲線は必ずしも「S」である必要はないと考えています。 前段に例示した3社の型取り法を比べてみても、恣意的にアーチを与える型取りをする2社のうち、Rocket7がS字の床材を用意しているのに対して、Bontは指先だけを持ち上げてアーチとしています。 私はBontの方が自転車の靴としては適した考え方だと思うわけです。
人間のかかとは、軟骨のような組織がたくさん集まって形になっています。 ですから、確かに曲げようと思えば曲がらなくもない という程度の柔軟性は持ち合わせているようです。 ハイヒールのように歩行しなければいけない靴では、どうしても自分の体重を支えなければならない都合があるので、なるべく地面と平行になるよう、最後には曲線を回復させる必要があります。 しかし、歩行しない自転車専用の靴に必要なデザインとは私には思えません。

また、私自身はアーチが全くない、完全にフラットな、場合によっては逆に指先が下を向いているくらいの型取りがしたかった。 それが結果的にそうならなかった という話は、後段に譲ることにします。






【私の型取り】
本来であればこのブログはなるべく写真付きで解説するのが趣旨なのですが、こればっかりはあまりにも手が汚れてしまうのと、石膏がどんどん固まっていくので全くそんな余裕がなくて一切写真がございません! あらかじめご了承下さい。


‹使用した道具›


床材
型取り主材
ビニール手袋
ヴァセリン
キッチンペーパー
金属板
デザインナイフ
ビニールテープ
バケツ+水
ビニールシート
椅子
ゴミ箱




‹型取り理念›


柔らかい床材の上で、足裏の起伏を豊かに反映させながら、なるべくフラットに型取りを行う。 足裏のアーチは、極力ゼロに近づける。 指先が絶対に縮こまらないよう注意し、むしろ広がる余地さえ出るようにゆったりと型取りする。




‹作業工程›


①もし足の指や足首周辺に体毛がある場合は、予め除去しておく。 爪も適正な長さに切りそろえる。

②ビニール手袋をつけ、ヴァセリンを足に塗り込む。 自分で型取りを行うならば片足ずつの作業となるのは必至なので、であれば片足だけ塗ればよい。

③幅2cm程度で適正な長さに切り出した薄い金属版を、足の甲に沿わせてテープで固定する。 型取り材料の巻きつけ方法や作業者の習熟度によって、固定せずとも作業ができるようになることもある。

④足を下ろす場所にキッチンペーパーを敷き、適度に水分が吸収されるように準備する。

⑤幅約10cm、長さ4.5mの石膏包帯をバケツの水に突っ込み、中心まで浸透したなら引き上げて軽く水を切る。 湯を使うと硬化速度が速まるので、それを望まない限りどんなに寒くても水を使うべきである。 また、水へ突っ込む前に石膏包帯の切れ目を掴んでおかないと、見失って時間を無駄にすることになるので注意。
石膏包帯は絶対に水の中で泳がせたり、何度も握って水の出入りをさせてはいけない。 石膏包帯は、目の粗い包帯に石膏がまぶしてあるわけだから、石膏の粉末が水中に出ていってしまった場合硬化能力が失われる。 いつまでも固まらず、足を引き抜く際に失敗して潰れる。

⑥足の甲から巻き始め、最初は足首へ向かう。 この初めの段階で、足の甲にある金属板を正しい位置に修正しておく。 以後は基本的にSimmonsの動画にある通りに行う。
指先は本当に注意深く、ゆるすぎるほどゆるく巻かなければならない。 私は足の指を広げながら包帯を巻き付け、床材の上に下ろしてから指先を撫でるようにして形に沿わせるように心がけた。 足の甲やかかととは違い、指先は手のひらでしごくように沿わせると確実に小さく型取られてしまう。
足を空に浮かせた状態で、まずは足首、かかと、足の甲、足裏(指先含む)を素早くしごいて沿わせる。 石膏包帯をなぜしごくのかというと、まず第一には、蜜に足の形を反映した型を取るためである。 包帯は繊維であるから、巻いただけでは内部にもシワがあって密着していない。 第二に、包帯のあらゆる隙間に石膏の粉末が溶けたものを行き渡らせるためである。 もし石膏包帯をしごき終わった後も、その繊維がありありと見えている状態であったなら、それは石膏が浸透しなかった包帯がむむき出しになっているということであり、きっと内部も同様である。 これを防ぐために、しごく時は適切にバケツへ手をつけて水を含ませながら包帯に圧をかけ、浸透を促すのである。
指先は厳に繊細に、他の場所とは明らかに異なる手つきで作業するべきと書いたが、その指の裏側については、やはり足を空中に挙げた状態でしか触ることができない。 まずは足の指先まで含めた足裏全体に、手の平などを使ってきちんと石膏を湿潤させ、足をおろした後で足の指の側面・前方・上っ面を丁寧に沿わせる。 この時、私は本当に右手の人差指1本だけで足の指を撫で上げた。 それで充分だし、それ以上すると足の指は容易に縮こまっていしまい、小さな型になってしまう。

⑦足首の不要な部分を押し下げ、くるぶし丈まで短くする。 それ以上あっても無駄だし、弊害しかない。 膝と足の垂直を出し、自然な脚の重みを保って固まるのを待つ。

⑧やや固くなってきたところでデザインナイフを使って足の甲に切り込みを入れる。 一度で切ろうとせず、何度も滑らせて切断する。 切れていないのに無理やり押し切ろうとすれば、重なった繊維をぐさぐさに引っ張ってしまうことになる。
切れたと判断したなら、まずは一度切り込みを指で開いてみて、きちんと包帯が切断できていることを確認できたら、先に金属板を引き抜いてしまう。 再び足の甲の包帯を元に戻し、足の甲に沿わせるように指圧する(金属板の分、足の甲に隙間が生じている)。

⑨ナイフの柄で叩いて乾いた音がするほど硬化したら、足を石膏から引き抜く。 切れ込みに指を突っ込んで大きく開き、その後つま先とかかとを両手でつかんで引き抜く。 ここで失敗することはよくある。

⑩型の切れ込みを素早く閉じて、かかとの形が開いてしまっているなら塩梅よく指で絞り、ビニールテープで留めて乾燥するまで保管する。




‹反省や補足›


おおよそ上に書いたとおりです。 文字ばっかりで申し訳ありませんが、そもそも型取りに興味がある人しか「実際の作業方法」なんて目を通さないでしょうし、であれば詳しくないと意味がないし、きちんと書きました。

とにもかくにも、妙に締め付けたり、縮こまったりした型を取らないこと。 これが大前提です。
足の指ってね、本当にすぐ丸まるんですよ! 硬化が始まっていたら、一度押してしまったらもうアウトというくらいに考えておいた方がいいです。 だから私はキャスティングソックスが好きではないんです。

例えば私の型取り理念とかなりの点で共通しているSimmonsなどは、速乾性の石膏包帯を使っています。 しかし実際に作業してみての感想は、これは仕事人が手際よく作業するのには時間短縮によいのだとしても、あまりにも硬化時間が早くて私にとっては扱いにくいということでした。
また、例えばSierraなどでは大判(約30cm幅)の石膏包帯を予め切っておいて、貼り合わせて型取りをします。 これも素人には難易度が高いように思います。 また、大判の石膏包帯自体、日本では入手がたいへん難しいです。 私はわざわざドイツから輸入するハメになりました。
ということで、私の推奨する石膏包帯は、圧倒的に赤3裂(普通硬化速度で幅10cm)です。 そして、うまくいかない人は、なるべく厚く巻くようにしましょう。 薄く、きれいに使ってきちんとした型を取るのは難しいことです。 厚く巻けば、それだけ内部にゆったりと石膏が留まるし、足を引き抜いた時に形を保つ力も大きくなります。

ちなみに私は赤・緑、2裂・3裂の組み合わせで石膏包帯をそれぞれ4箱ずつ購入して全部試しており、なおかつそれを全部使い切る勢いで練習の型取りをひたすら繰り返しました。 全部で20足くらい作ったと思います。

私の誤算だったのは、柔らかい床材で型取りすると、指先が勝手に取り残されてアーチがついてしまうことです。 このことは今後の大きな課題です。 柔らかい床材で足の裏を豊かに取ろうとするほど、フラットな型を作るのは難しくなる。 足裏の起伏を大切にしながらも指先が上向かない型取りを可能にするためには床材を工夫するしかありません。 間違いなく数年以上先になるとは思いますが、いつか再注文する時のために考えを進めていきたいと思っています。
工房主に型取りしてもらうことの安心感。 あるいは素人の自分がセルフ型取りをする不安感。 それは確かにあると思います。 しかし、そういう型取りをすればそういう靴ができるのです。 そういう足型を渡されたら、そういう風に作らざるを得ない。 そういう足型が取れたのに、違った靴を作ることはできないのです。 「こういう靴がほしい!」という自分の理想があるのだとしたら、それを実現するためには自分の型取り理念を実行するべきです。 その点において、工房主による型取りではなく自分の型取り理論に従って型取りすることは大きな意味があります。 ある意味では積極的に行うべきことなのだと私は理解しています。






【おまけ】


これ、実は私も同じことを考えていたのですが、「いやしかしこんなものは聞いたことがないぞ・・・」とやめてしまいました。 というか、一度型取りしてみたところ、土踏まずの下に挟んだキクロンスポンジそのまんまの四角い形状がありありと浮き出ていたため、「これはうまくないな」と断念したのでした。
でも、自転車の靴ではありませんが、こうして自分と同じねらいをもって靴作りをしている人がいるとわかって、励みになりました。 指先を上向かせずに柔らかい床材で型を取るという課題に加えて、土踏まずの強調を自然に取り入れられるよう考えていくつもりです。

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2016/10/30 Sun. 15:44 | trackback: -- | comment: 0edit

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