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実用や本質と立場や正義がせめぎ合うブログ

コインは表と裏がくっついてコイン。 表の後ろを裏と呼び、裏の前を表と呼ぶ。 要するにコイン。

Simmons Racingの靴で幸せになった話 第2回 

Simmons Mojo『Simmons Racing(ry』と題しておきながら、さりとてこの記事ではなぜカスタムオーダーという選択肢が重用されるのかについて主に書きたいと思います。

The strong point of Simmons Racing and general thinking about why custom ordering is still being great choice nowadays.




昨今、熱成形技術というものが自転車の世界にも浸透してきました。
熱成形技術がスポーツの世界で最初に使われたのは、スキーブーツであったろうと思います。 その後スケートの世界にも輸入され、私が小学生を卒業するくらいの時になると、日本でもそのような商品を買うことができました。 自転車の靴に導入されたのは、それからずいぶんタイムラグがあった後のことだったと記憶しています。 スキー畑のLangeやGrafがスケートブーツを作り、スピードスケートの各種工房が自転車の靴を作ったのです。
今や熱成形技術はたいへんな進歩を遂げ、かつての基準から見れば魔法と言っても差し障りない領域に突入しています。 であるのに、未だに世の中からカスタムオーダー・シューズはなくならなりません。 いくらなんでも「いっそう価値が高まり、広まっている」とは言いませんが・・・。 一方で、熱成形シューズの素晴らしさが広く認知されるほどに、「いったいなぜカスタムオーダーなど必要なんだ」と思う人は増えていくのではないでしょうか。
この記事では、少なくとも私の思う限りではありますが、カスタムオーダーというものの存在意義を書き示すことにします。 これは転じて、熱成形技術とはいかなるものか という良き理解の一助にもなるでしょう。



【熱成形技術の弱点】

熱を加えると変形し、冷却後もその形を保つのが熱成形技術ですよね。 しかし、なぜ、どのように、どこ(なに)が変形するのか考えたことはあるでしょうか。 熱成形技術は魔法ではなく、万能でもありません。
例えば、それが端的に見てとれるのが靴底です。 私の知る限り、靴底まで熱成形できる靴というのは、スキーでも、スケートでも、もちろん自転車の世界にも存在しません。 同様に、トーキャップ(つま先)やヒールカップ(かかと)も熱成形が難しい場所として知られています。 およそ、靴底とつながっている近しい部分は形を変えることができない場合が多いです。
熱を加えて形を変えられることを熱可塑性と云いますが、熱可塑性素材には様々な物があり、柔らかければ当然大きく引き伸ばすことも可能ですが、そんな素材を靴底に使うことはできません。

BAU_1170_Category_Priority1_FFEP_Skates.jpg

一例として、アイスホッケーのブーツメーカーであるBauerという会社の案内をご覧ください。
この画像は、Bauerが販売する靴に異なる3種類のフィッティングがあることを示したものです。 これら3つはどれもがトップモデルという位置づけで、決して第2・第3グレードの商品でお茶を濁しているわけではありません。 人の足の代表的な特徴を3つ定めて、それぞれ違った形のブーツを提供しているということです。

Bauerがこのように展開する理由はなんでしょうか。 アイスホッケーのブーツは、自転車用の靴に比べるとソリッドな素材を使う必要性が求められています。 それにしてもこのような方針を打ち出す背景には、熱成形ではボリュームを創出できないという大前提があります。



【靴本来のボリューム】
ボリュームというのは、広義には、その靴に与えられた容積のことです。
スポーツ用の靴に限らず、靴のセミオーダーでは多くの場合、何箇所か足の周長を測ります。 これはボリュームの見当を記録しているのです。 特に重要視されるのは、足の甲のボリューム。 甲高の人。 平べったい人。 どう考えても、同じに作ってどちらにも合うわけがないし、その差を補い切る能力が熱成形にあるのかと言われると、程度問題ではありますが「なかなか難しいだろう」と言わざるを得ません。

全体的なボリュームもさることながら、足にはそれぞれ局所的な起伏が無数に存在します。 ですから、仮に全体的な足の体積と靴の容積が釣り合っていても、くるぶしの膨らみとか、伸筋腱の隆起とか、指の長短とか、扁平足とか・・・ そういった局所的に要求されるボリュームを靴が許容できないなら、やはりそれは、その人の足に合わせることができていないと言えます。



【フィット感と“居心地の良さ”の違い】
これはあくまで私の主観ですが、私達が靴の中で感じるフィット感は、手放しに「良いもの(≒パフォーマンスの向上につながる)」と考えてよいのでしょうか。 それはあるところから心地よさというベクトルに変わってしまい、自分が自転車をこぐにあたって本当に必要なことなのかどうか、もはや判断がつけられなくなるのではないでしょうか。
grip endこの事は、アイスホッケーのエンドグリップを削っている時にいつも感じます。 自分が握りやすい形を求める気持ちは間違っていませんが、作業を進めるうちに、いつしか単純に「手触りのよい形」に成り下がってしまっているのです。 その結果、実際に使ってみるとエッジの利きがまるでなくて、構造的グリップ力が欠如したエンドグリップになってしまいます。
無論、自分の体を強く刺激する道具は痛みをもたらす可能性があり、そんな物は使っていられないでしょう。 世の全ては程度問題である と釘を刺す一方で、私は、靴に求められる“フィット感”の多くは、既製品の靴だからこそ重視されるべきものであって、カスタムオーダーシューズであればその限りではないのではないかと考えるようになりました。 そういった気持ちよさとか快適さが不必要だとは言いません(あるならあった方がよい)が、それよりずっと大切なものが、カスタムオーダーによって得られると感じています。

例えば、アッパーの素材には伝統的にとても柔らかい素材が好んで使われてきました。 人間の足の甲にはほとんど肉がなく、力を入れると腱が盛り上がるってくる場所でもあって、そもそもしなやかな素材をあしらった方が“快適”だからです。
ところが、足の甲は靴紐の締めつけを受ける場所でもあります。 靴と足の固定力を得るために、唯一圧力を受けるのがこの部位です。 足が靴の中で遊ぶ余地のある既製品や、既製品の熱成形シューズでもその人の局所的ボリュームに対応しきれていない物は、たくさん足の甲を締め付けて固定しなければなりません。
私たちは圧倒的に既製品の靴しか履いたことがないので、このような既製品の要求を前提にした常識が身についているように思います。 「良い靴の条件のひとつは、柔らかいアッパーが備わっていることである」。 「そのアッパーを、効率よく締め付けることのできるレーシングシステムが必要である。 その一例がBOAや紐締めである」。 しかし、もし全体のボリュームが全くそつなく自分の足に合っていて、そもそもズレにくいのだとしたら? 我々のこういった常識は、それでも上辺の気持ちよさではなく必要とされる要件の体裁を保っていられるものでしょうか。
結局そこに線引きするのはたいへん難しいし、引いても利益があるわけではないのですが、そんなことを考えてしまうようなちょっと違う感じがカスタムオーダー・シューズにはある(少なくとも私の主観において)ということをわかっていただければと思います。 Simmons Mojoのアッパーは実際ほとんど足の甲を締め付けておらず、確実に触れているのは足首の周辺のみ。 それでいて足が動くことはないのです。



【既製品との比較】

‹靴底の広さ›


comparing SiDi and Simmons

私が使用していた既製品の靴はSiDiでした。 それと比較してこの靴底の広さはどうでしょう。 差は一目瞭然ですね。
アイスホッケーでオーダーしている靴でも同じことが言えます。 カスタムオーダーされた靴の靴底は一様に広い。 もちろん無駄に広いのではなく、適正な広さがあるということです。
自転車でもカスタムインソールの存在はよく認知されていると思いますが、あのような道具を使って人間の力を最大限発揮させるための理論では、適正な広さの靴底が重要であると考えられています。



‹指先の形状›


comparing SiDi and Simmons

これもまた顕著です。 この違いだけ見ても、「ああこれは注文してみる価値はあるかもしれない」と感じられるのではないでしょうか。 いくらなんでも、このようなボリューム差を埋め合わせることができる能力は熱成形にはありません。



‹足裏を反映した靴底›


DSC03907

賛否両論あるところかもしれませんが、基本的に自転車のカスタムオーダー・シューズは足裏の形をそのまま反映して作られるので、インソールは使用できません。 一時は私もカスタムインソールが入れられるように作った方がよいのではないかと考えましたが、実際に使ってみた感想は、結局これでいいんじゃないかという感じでした。 カスタムインソールもまた万能ではなく、靴底の曲線とか、インソールが靴のどの位置に収まるかとか、全てが明瞭というわけではありません。
今回のSimmonsでは、私は柔らかいマッサージ台の上で型取りを行い、足裏の形を豊かに反映した足型を取りました。 それで作られた靴ですから、もちろんできあがった靴は全てカーボンで作られていてたいへんソリッドな物体なのですが、踏んでいる時に感じるのはマッサージ台に半ば埋まっているような足の感覚です。






以上に加えて、もちろん前回の記事でご紹介したような特殊注文ができるのも魅力です。 また別の記事に書くつもりですが、かかとを低くしてくださいとも注文しました。 Mojoはもともとスリッパみたいなデザインの靴ではありますが・・・。
あと、割と多くの人が誤解しているところがあるかもしれませんが、カスタムオーダー・シューズも熱成形可能な物がほとんどです。 ただし、基本的に最初から自分の足に合わせて作られているので、既製品の熱成形シューズのように靴ごとオーブンに入れるようなことはせず、ヒートガンで側面やアッパーだけを温めてなじませるようにします。

次回は型取りについて記事を書くつもりです。

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2016/11/13 Sun. 00:45 | trackback: -- | comment: 1edit

コメント

シューズよりサドルの型取りカスタムってありませんかねぇ?

自転車は基本的に『歩かない』スポーツなので靴はレディーメードで十分許容範囲なのですが・・・。

ひろべぇ #- | URL | 2016/11/20 01:26 * edit *

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