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実用や本質と立場や正義がせめぎ合うブログ

コインは表と裏がくっついてコイン。 表の後ろを裏と呼び、裏の前を表と呼ぶ。 要するにコイン。

左久作の蟻鑿 

Hidari-hisasaku motise chisel京・月島にある左久作。 こちらへ蟻鑿を6本お願いして待つこと1ヶ月強。 できあがった鑿が届きました。

Hand maded chisels for making motise hole.




いわゆる「仏具」と呼ばれる物の他にも、寺にはたくさんの持ち物があります。 
それは例えば、お粥やごま塩を入れる桶や器。 あるいは棚や机。 花瓶や鋏。 箒やバケツ。 確かにこれらは法要の場で使われることがないので、仏具ではないわけです。 しかしある一定の生き方をすることが目的の僧侶が、その生活を営むところが寺院であるわけですから、それを支える物々がいっそう大切だと言えます。 そうした寺院の持ち物を什物と云います。
修行道場の什物である、木でできたオカモチやお盆の裏に目をやると、平気で「昭和元年」なんて書いてあったりします。 もちろんこれは製造日のことです。 また、道場の敷地内にはそういった什物を修理または新造する木工所が併設されており、職人さんが詰めています(昔は僧侶自身だったかもしれない)。 一方ではそのような業務(修繕・土木・防災等)を担当する直歳(しっすい)という僧侶の要職があり、それは非常に地位の高い役職で、少なくとも下っ端とは程遠い高位の老僧が任命されるものです。
道場ではない一般の寺院においては 寺を守るのは基本的に住職一人だけというのが一般的ですから、そのような役職を振り分ける必要がありませんし、逆に、同じことをしようと思ってもなかなかできるものではありません。 道場では裏山で採ってくる榊や枝松だって、お花屋さんに注文します。 建物の修繕は、建築会社に依頼します。 しかしここまで読んでいただくと、そういった土木作業だって、“寺”という生活空間に関わる事なら本当は全て坊さんがやることの一部なんだということがわかりますよね。


前置きが実に長くなりましたが、つまり今回注文した蟻鑿というのも、そういった“什物”を作るための道具として注文した物です。 この鑿自体が什物になったわけでもあります(ややこしい

蟻鑿というのは、木工における継ぎ手のひとつ・蟻継ぎをするための穴を掘るのに適した鑿のことです。 通常の鑿では厚さが邪魔して掘り進むことができない蟻の頂点を、正面から突っつくことができます。

・・・だったのですが、正直に申し上げて、届いた鑿は私が想像していた蟻鑿とはずいぶん状態に差がある物でした^q^
私は趣味者として他の愛好家の方と一緒になって木工に取り組んでいるわけでも、まして職人としてたずさわっているわけでもありませんから、こうした刃物を注文する際の流儀や押さえておくべきポイント、あるいは仕上がってきた品物の良し悪しを判断する基準・情報が備わっていません。 ですからこの鑿の仕上がりをきちんと主体的に評価できているかどうかは、読み手のみなさんも一歩引いてご覧ください。
ただ間違いなく述べることができるのは、この鑿が現在の状態のままだと、私の予定していた使い方にそぐわない・役立たない ということです。 職人さんに失礼があってはいけないので、きちんと事実だけを書かなければいけませんね。


Hidari-hisasaku motise chisel

注文したのは6本。 サイズは2、3、4、5、6、8分となります。 蟻鑿だけでそんないらんやろ!というのも尤もですが、こういうのはあって困ることはなくても逆はあり得ますから、一通り揃えます。
付随して、刃となる鋼がついた部分は1寸5分。 刃と柄の間をつなぐ首の部分は1寸3分の案内です。
柄の材料は白樫にしました。 多分、頼めば何でもつけてくださるとは思いますが、シンプルなのがいいですね。
値段は1本7000~12000円で、サイズごとに違いました。 これは時期や素材によっても違うでしょうし、あくまで参考としてお載せします。 次は2万円するかもしれないし、逆に安くなることもあり得るでしょう。

ここからが問題なのです。
まず、蟻鑿を蟻鑿たらしめている特徴でもある、蟻溝と同じ形状に削られた左右の面・・・その角度が、なかなかにバラバラです。

Hidari-hisasaku motise chisel

例えばこちら8分と5分ですが、もはや8分は普通の面取り追入れ鑿とあまり変わらないような・・・w
しかしこの8分の場合、実際に蟻を切ろうと思えば角度的に充分下回っているわけですから、作業可能です(コバが厚すぎてこのままではムリだけど)。 また、例えば蟻の角度を60度とするなら、「全ての鑿の面角度も同じ60度にしてほしい」と、私が最初から注文しなかったのが不足だったのかもしれません。


Hidari-hisasaku motise chisel

とはいえこちら2分の鑿(右)は・・・。 さすがにちょっとこの角度は、蟻溝の勾配を完全に上回っており、蟻鑿としてそぐわない形をしていると言わざるを得ません。 本当に単なる面取りか、ヘタしたら角打ち鑿のようですw

この点、左久作の現工房主さんのお手紙に、こう書いてありました。

鑿はいずれも研いでありますが、面は研いでいません
蟻の勾配に合わせて研いでください

つまり、「本刃付けまで済ませて出荷してあるけども、左右の面は一定ではないので、使う人が好きな角度に修正してください」ということですね。
もともと蟻鑿というのは、ここ最近まであまり知られていない形だったと聞きます。 ではこれまで蟻溝の加工に使う鑿はどうしていたか? それは、鎬鑿なんかの普通の鑿を、場合によっては使い手自身が蟻にふさわしい形に加工して使っていたのです。 私の手元に届いた鑿も、それを前提にして作られたということでしょう。

いやしかし、このような状態だと私には荷が重いと白状せざるを得ません。
アイスホッケーのエッジ調整では「Contour」と云って「Sharpen」と区別しているのですが、要するに「研ぐ」・「刃付けする」のではなく、金属全体の形を望むべき形状へ変更するための切削は、本質的に違いがあります。  私のような者でも普通の刃研ぎは上達していくものですが、それだって、刃物の平面を崩さぬよう ゆっくりゆっくり 職業としてなさっている方だと商売上がったり!といったアホ丁寧さで臨んでようやくマトモに研げるのが、我々素人の悲しい実力です。 ましてや「Contour」的な作業を それも6本もやれと言われた日には!w
日頃から仕事として親しんでいる方々と違い、私のような半端者にとって刃物の形を変えるような作業は手に余る重労働なのです。 刃物の角度を変えるだけでもかなり大変だということは、砥石を使って研いだことのある人なら多くご存知のところでしょう。 それを鑿の形ごと変えるのですから、私にとっては実に遠大な話になり得ます。


Hidari-hisasaku motise chisel

「左右の面を自分で調整してください」とのことですから、コバの部分もこのような状態です。 だいたい1.5mmくらいは残っているでしょうか。 また終始同じ高さではなく、所により厚かったり薄かったりします。
ある鑿のあるところではコバは消失していたり、また他にに目を移すと2mm弱残っていたりする。 左右面の角度が使い手の蟻の勾配に合っているか?という以前に、これほどコバが残っているので、現時点では蟻鑿として使うことはできません。


Hidari-hisasaku motise chisel

そしてこちらが裏スキなのですが・・・。 なんといいますか。 雑!w
これは言って差し支えない、正直な感想でしょうw なんだか、私が何も考えずに裏押しして伸びてしまったかのような足をしています。
いえ、実用刃物というのはこういう物なのかもしれません。 私が今まで見てきた刃物には新品でこういった状態の品物はありませんでしたが、糸裏かどうかなんてことは、しょせん切れ味にはほぼ及ぼすところのないお話です。 ベタ裏になっているというわけでもないんですから。
しかしながら、右にある6分などはベタっぽくなってるのに刃の残りが1mm。 かたや糸っぽく仕上がっているのが5mm以上押してあるのを見ると、さすがにムラが出ているんではないかなぁと思ってしまいますね。


Hidari-hisasaku motise chisel

ちなみに、こちらの4分の鑿(左)は写真向かって右方向へゆるやかに反っています(かすかですが、レンズや写真の具合ではなく実物を目にすればすぐに気づくくらいの反りです)。 これはさすがに、ほぞへ突っ込んだ時不都合を感じるかもしれません。
目視でそれとわかる芯のズレが確認できたのはこの4分だけでした。



他の方の名前を出すなんて失礼すぎるので、ご本人に伝えたことはないのですが、(やはり)私が蟻鑿と言ってイメージしたのは清久の山蟻鑿でした。 勾配にあたる面の角度は1つの鑿の左右はもちろん 鑿それぞれを比べても一定で、
コバは髪の毛1本分くらいで前から後ろまで伸びている・・・そんなのを想像していたものですから、届いてみて少しあてが外れてしまいました。
届いてしまった・・・というか、私がそういう買い物をしてしまったのだから、ここからも私次第です。
今はこの鑿をどう使い物にするかを考えるべきです。 私の手には余る物ですから、以前にもお世話になったことがある、兵庫の大内さんを頼ってみることにしましょう。 まずはお話を伺ってもらうところからです。

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2015/11/08 Sun. 18:37 | trackback: -- | comment: 4edit

コメント

メールをいただきました

こちらに残させていただきます。

「正直どうですか?」とのことですが、ここに書いてあることは「正直なこと」ですので、嘘でもないし、本音でないということもありません。
その上で「どうですか?」というのは、それはもう私に判断できることではありませんので、主観的に、あるいは主体的にご判断いただくほかありません。
記事の記述もけっこうつぶさに写真付きで載せていますから、判断材料が乏しいということもなかろうと思います。

切れるか切れないかということでいえば、決して切れないということはありませんよ。
むしろ使い勝手はよいと感じているのでよく使っている方だと思います。
ただし本文にも書いたとおり、届けられたそのままの状態では、鎬はともかく蟻鑿としては使い物にならない状態ですし、その他もろもろ問題が多すぎます。
それでも注文したいという方もおられるでしょうし、繰り返しになりますが、それでも是として注文なさるかどうかは私には判断のつけられないことですね。

ZENSHOJI.inc #- | URL | 2017/03/15 21:41 * edit *

初めまして

2015年に書かれた記事なので、コメント遅すぎるかもしれませんが…

初めまして。私は先代左久作の小刀、木成り鑿などを所持し愛用している者です。以前は職業で使用していましたが、今はただ研いだり眺めたりしていることが多く、実用的な使用者であるとは、言えない状態です。

先代には直接仕事場に伺って注文し、品物を受け取っていました。ですから、喜幸さんにも何度かお会いしたことはあります。

先代の刃物の造りも、繊細というよりは豪快でした。彫刻刀鍛冶の小信さんなどとはまるで違うタイプです。
ある意味、荒っぽい造りでしたが、けっして芯が歪んだり精度が悪かったりということは、ありませんでした。表面のやすり目などは粗くても、ウラ透きの精度などは素晴らしいものでした。まして左右に反ってしまった鑿など三厘鑿でも、皆無です。

ですから、管理人様のこの記事は、読んで愕然といたしました。
先代は師匠にも鍛えられたでしょうが,客である職人にも鍛えられたのでしょう。腕が良くてうるさい客が多かった事と思います。

そうした時代ではなくなってしまったということでしょうか。

それにしても、客に「蟻の甲を削れ」とは…
高橋和巳という鑿鍛冶は焼き入れした後で甲をぎりぎりまで削ってコバの厚みを極薄にした埋め木鑿を作っています。非常に精度の高いものです。それも約9000円ほどで。白二号の鋼で、です。

諸刃小刀とか、左久作でなければ造れない刃物もあるのですし、切れ味に関しては確かなものがあるのでしょう。
ただ、こんな仕事の仕方がいつまでも通用するほど甘い世界ではないことを。三代目にも理解して欲しいものですね。

たなか #K/3VMzsE | URL | 2017/06/03 15:35 * edit *

>>たなかさん

こんにちは。

高橋さんの鑿は、私も1本使っています。
「特殊鑿」という名前に違いなく、「こんなのないかな」という物を見つけると高橋さんの作品であることが非常によくあります。
それなのにお値段はリーズナブルですから、すごい鍛冶屋さんです。
できばえも非常にカッチリしている印象です。
ただ、なぜか私の感覚より切れ方が“軽い”気がしてしまい(だいぶ感覚的・主観的な話で、高橋さんにもたなかさんにも申し訳ない)、もう少し使い込んでみなければという気持ちでいるところです。

左久作の鑿は、私以外にこのような状態を報告しているものを拝見したことがありませんし、もしかすれば、私だけの特別だったのかもしれません。
「左久作の小刀は鉄も切れる」なんて聞きますし、刃物の大本質である「切れる」という性能が、他の工房に比べて傑出しているのなら、いくら外形や裏スキが乱れていようとも、「そんなものは私が手直しすればよい」と言って購入を希望する人はたくさんいるのではないでしょうか。
ただ、本文中にも書いたように、私自身について言えば、例えば新しい鉋なども仕込みをしてもらった状態で購入するくらい、新しい大工道具の初期調整にかかる手間を忌避したいのが本音です。
素人の遅すぎる手でそんなことをしていては、それだけで1週間過ぎてしまうのです。
鑿の外形を、「整える」を通り越して「一から決める」レベルとなれば、もうお手上げです。
よって、少なくとも私が左久作の鑿を購入することは、もうないかもしれません。
本当は、同じ東京ということですから、ぜひお付き合いをしたかったのですが、残念です。

ZENSHOJI.inc #- | URL | 2017/06/04 20:35 * edit *

ありがとうございます

さっそくのお返事、ありがとうございます。

ZENSHOJIさんは謙遜されていますが、刃物に対する知識や愛情は、半端なものではないと感じます。
この記事の次の記事も拝見致しました。素晴らしく直されて生まれ変わったようですね。ともあれ、道具が「使える」状態になったのは(他人事ながら)気持ちの良いものです。

焼き入れ後の刃物をヤスリやセンで成形するのは、素人じゃなくても無理です。大工だってやらないでしょう。
「鍛冶仕事が趣味」という方なら別ですが。

私の以前の仕事は人形造りでした。ですから、刃物は主として木彫に使いました。木彫用の刃物って、ヘンな言い方をすれば「切れればよい」のです。
少々ひん曲がっていたりウラが正確な平面でなくとも使いようで、なんとかなるのです。

でも、建具とか大工の鑿は平面精度や寸法精度をうるさく吟味するはずですよね。
「3分の鑿とは3分の穴を開けられる鑿のことだ」とは先代の左久作さんもおっしゃっていました。「2分八厘くらいの幅に仕上げなければならない」と。

三代目とは直接お話したことがないので、どんな考え方をしていらっしゃるのか、分かりませんが。

それにしても、この記事を読ませて頂いた読後感というか印象が、意外に爽やかなものでした。重苦しかったり、 相手を一方的に誹謗したりおとしめたりしたものではなく、淡々と事実を語っているところが、さすが宗教者でいらっしゃるな、と感心致しました。

今後も、またこちらのブログに立ち寄らせていただこうと思っております。

たなか #- | URL | 2017/06/05 15:59 * edit *

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